一発逆転の立川 不動産

書き込んだものはすべて回答項目の〈その他〉に入っているようそれからしばらくたった八月一五日付で、二回目のアンケートが送られてきた。 前回のアンケートの日米の回答集計も同封されており、その結果を見たうえでふたたび記入する仕組みになっていた。
アンケートは一、二回とも、どの設問も〈日米交流の推進〉をうたい、それを前提としていた。 あてはまる項目の番号に○印をつけるものだが、私の考えがあてはまる項目はほとんど用意されていなかった。
一回目のアンケートでは、たとえば〈企業と企業の間の日米交流を推進する場合の障害〉はなにかという設問で、回答項目を見ると、〈言語の違い〉はまだいいとして、企業サイドからの〈非関税障壁の存在〉とか〈貿易摩擦の存在〉などという一三項目が並んでいた。 私は、項目外に、その障害が〈私企業営利・国益ばかりが重視されすぎ〉ていることにあると、書き込むほかなかった。

また、〈日米交流の推進〉のため〈都市が果たす役割〉についても、あてはまる項目がなく、〈米国だけに交流を限定して考える必要性はまったくない。 他国と同等同様に〉と書き込んだ。
最後に、どんな意見でもよいから書けるスペースがつくってあり、〈日米関係だけを他の諸国との関係から切り離して特別視しすぎている。 このアンケートの出発点の考え方自体に賛成できない。
反対だ。 〈日米偏重関係こそ正す必要がある〉と書いた。
私自身も、アメリカ取材で前記の「労使戦争」を書いており、〈米国と関わりのある〉者の一人だった。 アメリカへ渡航するには、駐日アメリカ大使館で許可手続きをとらなければならない。
アメリカ大使館あたりの名簿か文化人名簿の類から、あらかじめ〈米国と関わりのある仕事をした〉人物を回答者に選定したのにちがいなかった。 二回目のアンケートも、設問そのものが、私のいう〈日米偏重関係〉にもとづくものだった。

たとえば、教育交流の障害はなにかという設問では、回答項目は〈資金不足〉とか〈留学生がこない〉といった派生的なものばかりがあげられていた。 私は〈教育への国家および政治の介入が障害となっている〉と書断わっておくが、私は、日米友好関係を国民レベルで自由に深めることが非常に重要だと考えている。
だからこそ、このアンケート調査に〈協力〉したのだ。 だが、今日のように国家によって成り立っている軍事、経済、教育、文化などの全面にわたる〈日米偏重関係〉が、むしろ日米両国民の友好の障害になっている、と考えている。
私は二回目のアンケートの回答を送付してから、アンケート調査をN総研に委託した「日米市長及び商工会議所会頭会議実行委員会事務局」を訪ねた。 その事務局は東京都庁生活文化局国際交流部にあり、同部が事務局を代行していた。
私が「アンケートのことでわからないことがある」というと、担当のY都市交流課長は、それ以上、なにも聞かないうちに、「どうも申し訳ございません、私どもに舌足らずのところがございましたので」とひらあやまりだった。 私以外にも何人かから抗議めいた問い合わせがあった気配だった。
Y課長は「実はこういう会議がございまして……」と、リーフレット「第一九回日米市長及び商工会議所会頭会議」を差し出した。 これには、八七年一月一六日から四日間、開催する東京会議の概要やこの団体の設立経緯や目的などが要約してあった。
リーフレットによると、この団体は、五一年一0月、〈サンフランシスコでの対日平和条約調印を機会に日米間の親善と相互理解を促進するとともに、市政、産業、貿易、観光事業などの発展に寄与することを目的〉に設立された。 日本が「不沈空母」となるような今日の日米軍事同盟、日米経済協力などの原点は、このサンフランシスコ条約にある。
この日米同盟を〈促進〉〈発展〉させるために、この団体は結成され、そのための会議を開催してきた。 この団体の中心は、日米の財界団体の首脳と都知事などの自治体首長たちだった。
リーフレットには、五島昇東京商工会議所会頭(日商会頭兼務、現名誉会頭)の「ごあいさつ」も掲載されていた。 彼は、〈技術革新と情報化の目覚しい発展を背景に〉〈日米両国の相互関係の一層の緊密化とその世界経済に果たす役割〉を重視すべきであるなどと述べている。
今度の東京会議のテーマも、〈日米関係の新展開国際化、情報化の進展と都市の役割〉というもの。 六つの分科会のテーマも、〈高度情報時代の都市基盤整備〉〈情報化の進展と新しい都市産業〉〈日米企業の相互進出と都市の役割〉などとなっている。

いま、財界と金融大企業の主導で、東京を国際金融センターとする各種の構想が浮上しているが、それにも呼応したものとみられる。 N証券も、T会長が〈東京を国際金融センターに〉と〈提言〉(冒本経済新聞』八七年四月三○日付)するなど、それを先取りしている。
私が「こんなリーフレットがあるなら、どうして同封してくれなかったんでしょう」というと、Y課長はただ恐縮するばかりだった。
さらに、「こんないいかげんな調査を、いったいいくらでN総研に委託したのか」と聞くと、小さな声で「三○○○万円ほどです」といった。
また、「N総研は単行本の出版も考えているようです」ともいった。 全体から見ると些細な余録だが、N総研としては、怪しげなアンケート調査で三○○○万円の委託調査料をせしめたうえに、ダダ同然で寄せ集めた情報で印税も稼ぐ。
その後、一月一四日になって、N総研から単行本『日米新時代摩擦を超えて」が送付されてきた。 その最終章「新・日米関係の展望日米交流をさらに進めるために」では、アンケート結果から、〈日米交流を支える五つの原則〉と〈日米交流促進のための七つの方向〉なるものがまとめられていた。
単行本の〈発行〉はN総研の「情報開発部」となっている。 かつこうよくいえば、悩報はしばしば「開発」される。
リアルにいえば、しばしば都合よくつくられ、恋意的に活用される。 単行本には、東京会議実行委員会会長であるS都知事の手紙が折り込んであった。
東京会議には、皇太子夫妻やT首相なども〈参加され〉て〈成功裏に終了〉したそうだ。 そして、〈日米両国各都市及び商工会議所が二一世紀に向けて国際化・情報化社会に対応した都市づくりに相協力して迩進することを確認し合った〉という。

以上が、N総研が委託を受けたアンケート調査にかかわった顛末だが、はからずも、N総研による誘導尋問ならぬ誘導アンケート調査に協力させられ、その情報の偽造過程を知らされる結果になった。 証券界のある関係者は、「N総研は三○○人以上の研究員を抱えていると自慢しているが、連中はインテリ・ヤクザですよ」と、手厳しかった。
このアンケート調査の顛末には、情報収集の詐術と詐欺的情報の作成の手法などが、一式そろっている。 まず、アンケート調査は、〈日米両国の相互関係の一層の緊密化〉という明確な目的をもちながらそれを隠し、目的にそった結果を誘導する仕組みになっていた。
そのため、あらかじめ目的にそった人びとを回答者に選定し、設問も目的にそったものだけにかぎっていた。 万一、私のように異論をもつ例外があったとしても、「その他大勢」に含めるならまだしも、少数の〈その他〉として無視できる段取りになっていた。

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